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東京高等裁判所 昭和41年(ラ)313号 決定 1967年3月09日

抗告人 広瀬勇

相手方 佐藤商事株式会社 外一名

主文

原決定を取消し、本件を新潟地方裁判所長岡支部に差戻す。

理由

本件抗告の趣旨および抗告理由は、末尾添付別紙記載のとおりである。

本件記録によれば、次の事実が認められる。すなわち、相手方佐藤商事株式会社は、昭和四一年二月七日債務者小林定一の有体動産に対し強制執行をなしたところ、抗告人および相手方有限会社長岡研磨からそれぞれ配当要求があつた結果、原裁判所において配当手続が開始された。(同庁昭和四一年(リ)第四号配当事件)。抗告人は、右事件の配当期日(同年三月三〇日)において、配当表中、相手方両名の債権全部の存在を争い、右両名に対する配当に異議を述べた。次いで抗告人は、法定の七日の期間内である同年四月五日、相手方両名を被告として原裁判所に対し配当異議の訴を提起したが(同庁昭和四一年(ワ)第七一号配当異議事件)、配当裁判所である原審に対しては、法定の七日の期間内に、なんら右訴提起の事実について証明も届出もせず、右期間経過後である同年四月二八日に至り漸く原審に対し、「抗告人から相手方らに対する配当異議の訴が同年四月五日に提起され、係属中である」旨記載した原裁判所書記官作成の証明書(記録七三丁)を提出した。ところが配当裁判所である原審は、相手方両名に対する配当を同年五月二五日に実施すべき旨命じたので、抗告人は、右配当事件の判決確定に至るまでその停止を求めるため原審に執行方法異議の申立をしたが却下されたので、当裁判所に本件即時抗告を申立てたものである。なお、原審は、相手方両名に対する同年五月二五日の配当実施の期日を変更し、新期日は追つて指定する旨命じ、その結果、相手方両名に対する配当は未だ実施されていない。

ところで、配当期日に債権者が他の債権者に対し異議を申立てたときは、異議は、その完結しない部分について、配当停止の効力を有するのであるが(民事訴訟法第六三〇条、第六三一条参照)、他面、同法第六三三条によれば、異議を申立てた債権者が、他の債権者に対して配当異議の訴を提起したことを期日より七日の期間内に裁判所に証明しなかつたときは、裁判所は、異議に拘わらず配当の実施を命ずべきものとされている。(ちなみに、民事訴訟第六三三条は、訴提起の「証明」をなすべき旨規定しているが、当該配当異議の訴の提起された受訴裁判所と配当裁判所とが同一である場合は、単に訴提起の「届出」をするをもつて足りると解すべきである)。

ところで本件のように、抗告人が法定の七日の期間内に訴を提起しながら、配当裁判所に対するその証明が期間経過後になされた場合に、果して配当停止の効力を認めるべきかどうかについては学説上争の存するところであるが、かかる場合、未だ配当が実施されていない限り、その部分については、配当異議訴訟の判決が確定するまで当然配当を停止すべきものと解するのが相当である。けだし、民事訴訟法第六三三条が配当手続の迅速を図る趣旨に出た規定であることは疑を容れないけれども、右法条が同条所定の証明について後日の追完を絶対に許さないと解すべき明確な根拠は見出し難いし、他面、配当期日に適法な異議を申立てた債権者が、法定の期間内に異議の訴を提起し、現に当事者間に配当表の実体的当否をめぐり訴訟が係属中であつて、しかもその事実が配当実施前に、配当裁判所に証明されているのに拘らず、単に形式上右証明の手続が期間経過後になされたという一事だけで、敢て右訴訟の結着をまたず、常に先ず配当を実施すべきであると解することは、訴を提起した異議ある債権者にとつて酷に失し、債権者の平等を建前とする現行法の趣旨並びに衡平の観念に適合しないものと認められるからである。

以上と見解を異にし、上記認定のような本件事実関係のもとにおいて配当を停止すべきでないとした原決定はこれを取消すべきものとし、なお本件については、抗告人の提起した配当異議の訴がなお適法に係属しているかどうかを審理する必要があるので、本件を原審に差戻すのを相当と認め、主文のとおり決定する。

(裁判官 土井王明 兼築義春 矢ケ崎武勝)

別紙

抗告の趣旨

原決定を取消し抗告人に於ける昭和41年(ワ)第71号配当異議事件の判決確定迄之が配当実施を停止する。

との裁判を求む。

理由

原審決定理由に依れば抗告人の配当実施停止申立に付て之が理由として配当異議の申立が御庁に為された事の証明書提出が法定期日迄に提出されなかつた事を指摘し在り然し乍ら当時抗告人は今年 月 日提出の上申書記載の如く病気の為之が期間内の提出が不可能の状況下に在りたるものであり、加へて御庁に於ては抗告人よりの配当実施停止申立書類中、前記証明書が提出不能なる事実に付ては当時充分了知し在り、然るに之に対する何等の催告も審理も行はれざりし事実は記録に徴しても明らかであつて訴訟手続上の違法である依て本抗告に及ぶ次第である。

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